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町家再生研究会(第100回例会)
日 時 2002年 6月 8日(土曜日) 午後2時~5時
内 容 防災からみた町家再生の課題
-危険性を克服する技術と制度のあり方- 室崎益輝
場 所 学芸出版社3階ホール(京都)
参 加 約30名
研究室からは、佐々木、夏山、米江、安野、北後

あいさつ 町家再生研究会 会長 大谷孝彦 

 町家再生研究会発足10周年となりました。そのころと状況はだいぶん変わってきて、町家ブームになってきている。
 京都市でも、町家を活かしたまちづくりが進んできている。
 しかし、町家は、既存不適格建築物との状況がまだ続いていて、これらの動きと矛盾しています。これは、防災上の問題、構造、防火、避難のことが法律上、不適格とされているわけです。研究会では、このことをなんとかしていかないといけないと思っていまして、今回、室崎先生に、ご講演をお願いするわけです。

 京都市に対する答申で、町家を制度上、前向きになるようにするようなことを求めています。市民も、協力していきたいと思います。

防災からみた町家再生の課題
-危険性を克服する技術と制度のあり方- 室崎益輝

■町家の再生利用に焦点をあてて、話をしたいと思います。
■①現在の町家再生の防災上の問題点、②和風(京風)防災の基本、③町家再生の防災指針、について話をします。
■①町家再生の課題 その危険性をどう克服するか
 再生された町家は危険、2度と来たくないところがある
 町家の生命線の部分がある。
 たとえば、通り庭、火袋(アトリウム)、が大切なのであるが、本来の機能が失われるところがある。裏木戸がなくなってしまっている。
 これは、生命線であることの自覚がないことがある。
 ヒューズのような安全弁をはずしていることになる。
 そもそも多くの町家は、しごとの場、すまいとしての建物で、レストランといった多くの人数を想定したものではない。また、使うエネルギーも増大している。このような危険なものを持ち込む場合、それに応じて、かたちも変えていかないといけない。機能、危険性といった用途変更にともなうことについて、重要だということです。建築基準法での用途別の考え方は、この意味からは合理的です。
■2番目の問題は、確認申請における「曖昧」な取扱。城之崎の例では、3階からの避難を十分に考えて、といったことがありました。まともにすると、すべてだめになってしまいます。合法的に、みないようにするという、あいまいな態度。行政としても活用しようとするとき、あいまいな取扱とならざるをえない。景観を優先、しかし、その裏に、人命を軽視していることになる。いのちと文化を取引していることになる。いくら文化が大切だといっても、いのちにまさるものはない。両立させるのがデザイナーの役目なのですが、どれかを優先するとなった場合は、いのちを優先しないといけません。これは論点です。うらに、法の制度が悪いことがありますが。この種の問題は、景観だけではなく、バリアフリーの問題でもあります。バリアフリーと避難安全の両立が重要となってきます。いろいろな要素のバランスをどうとるかが重要です。京都の町家では、このバランスがとれている、かつての話ですが。個別で考えると、西洋の技術はすぐれているが、全体としては、ということです。
■川越の蔵、脇町のうだつ、いってみると野蛮な解決となっている。安全を重視すると、がっしりするけれども、洗練されたものがうしなわれてしまう。京都では、ぎりぎりのところを、維持している。京都は、道路の幅や軒の高さを考えて、安全を考えている。このようなものを現代に生かす。そのまま、かたちをもってくるということではありません。時代とともに、瓦、むしこまど、などが導入されてきたということがあります。現代でも、同じことができるはずです。しかし、本質的なものを失ってはいけません。より新しい、進化したかたちを求めるべきだと思います。新しい技術を取り入れて、行為とかたちを調和させる。
■②和風防災術の再生-伝統技術の継承と発展をいかにはかるか- 文化性、風土性、地域性の議論。それでしかだめと、全体としてよくする。性能設計法-建築基準の国際化、グローバルスタンダードの押し付け。それとはちがうやり方があるはずだ。アジア的、日本的、京都的な対応。哲学が西洋的で、牛耳っていくことではだめです。伝統的な文化が残らなくなってしまいます。
■<空間デザインへの融合>京都のよい点は、空間、デザインの融合。ひさし、雨をよけるだけではなく、陽射しカット、視線カット、避難ルートになっている。格子も同様。むしこまどは、すこし微妙。脇町のうだつ、品格をもつようになる。京都の様々のデザインは、防災を出発点にしている。特別避難階段は、避難のときしか使わない。多様性をもった空間、防災性のある空間が重要です。
■<相隣関係との連携>燃えにくさについての技術、相隣関係を、あんもくのしきたりとなっている。例えば、屋根の勾配、背割りの蔵、まどのコントロール。隣に向けて窓をとらない。火事は、輻射熱と熱風で延焼する。高さが違うと、弱いところに熱がいく。屋根がそろっていることに意味がある。カナダには、集団規定がない。京都の昔は、集団規定。地域の防災のシステムがないと成立しない。日本的な集団規定、コミュニティルールが大切。東京は300年で100回の大火、京都は千年で20件の大火。
■<暮らしとの一体化>ハードの弱さをソフトでカバーしていることがあります。条件としては、コミュニティがしっかりしていること。建築設備は、自動的でないと認められない傾向があるが、みんなでかけよって作動させるしくみのほうが、むしろ信頼性が高い場合があります。人間を信頼していくところが東洋(医学)。木造はメンテナンスを行うことによって、さまざまな性能が発揮されます。
■<自然の摂理への順応>自然の素材、摂理を取り入れた技術。
■以上の4つの点をまもって、空間の設計をしていかないといけないと思います。
■スライドで、町家を具体的に見ていきます。
   セカンドハウス、その他
   ものをつけるより、日常的なものを活用した例
   町家再生で苦労、試行錯誤していますが、それを体系化
   → ③
■③町家再生の防災指針
 基本的に人の命がまもれるとよい。設計図さえあれば、焼けても作り直せる。伊勢神宮も継承されている。人の命をどのようにすると守れるかという点が重要。2階からの逃げ道をどのようにつくるかが重要。町家再生のためのガイドラインをつくっていく。
■独自の建築基準を持たないといけない。論点は性能設計。人の命は「このようにまもっている」というシナリオや定量化で証明することが必要だと考えます。画一的な基準法と運用を変えていく必要があります。
■災害の段階ごとのシナリオをはっきりさせる。
 たとえば、火の拡がりを防ぐ、人の避難を考える。犯罪、放火とかについても、これからは含めて考えていく必要があります。
■デザインツールの整備
 各目的に応じて、出火防止など
■安全であることを評価できる方法の整備
 シナリオ、ツールだけでは認めてもらえない。という傾向があるので。大規模な木造では評価法ができているので、それを見習って、評価法をつくる。
■この作業がまだ、進んでいません。
■提言 町家再生安全ガイドラインの策定とその普及をはかっていく
■2、3の補足的なはなし
■歴史的防災技法の科学的検証
■たとえば、実験による検証
 水幕の実験
 関西木造文化研究会での土壁の実験
 伝統的な様式の実験を行い、弱点がある場合は改良する
 たとえば、面戸の部分
 町並みを愛する人からの基金をつくって検証をすすめることを考えています。
■景観形成型防火地域の制定
 準防火地域は何を要求しているかを見ていかないといけない。戦後、直後のバラックの火事を想定している。延焼速度を時速100mを超えると人が火に巻き込まれることがある。また、隣の家に燃え移ってはいけない。ということがあります。しかし、いまは消防力でカバーができることがある。安全になっているのに準防火地域が増えているという現実がある。(←準防火地域でない地域は安全か、という疑問がありえる。)
■景観形成型の建築誘導基準
 デザインのガイド、居住者の合意、くらしの作法
■伝統的防災仕様の一般認定化
 国に認めてもらう必要がある。

コメント 設計をしている木下さん、野間さんから

木下:この10年くらい町家の再生を行ってきました。再生された町家がこわいといわれるのがこわいです。役所で確認されて安全といわれるのが本当は安心なのですが。町家のそれぞれの部分が、防災的な意味を持っていることを、明らかとしておきたい。再生した現場を、共同して語って、コミュニティの場で、バックアップしていくようなことを考えていきたい。
野間:いままでのことを振り返っていきたい。長屋の路地の再生の時、怖いと思ったので、不燃性の材料を使ったり、バルコニーをまわしたりしました。いろんな現場で火事をみて、モルタルの効果などを見てきました。セカンドハウスでは、避難を考えてブリッジをつくって、鉄格子をはずして、ガラスのはめごろしにしました。厨房はケイカル板で囲いました。火の出るところは最近すくなくなりましたが、そのような場所は考えています。
大谷:京町家作事組でまとめた本があります。これには、町家の構造がよく書かれていますので参考としてください。この前の時の室崎先生の話で、パターンランゲージがありました。このあたりの説明をしていただきたいと思います。
梶山(京町家作事組):町家が総合的、包括的につくられていることは、わかります。防災の前に、防犯がきて、その次に、きゃしゃとかがくる。江戸時代に景気が停滞して、むしこまどになったのかな、と思っています。それを近代の西洋科学で評価するのがむつかしく、分析は部分的にみることになる。どのおうに評価するかがむつかしい。同じ土俵にのることで分けが分からなくなるかもわからない。
室崎:■まず、一番目に、再生町家が全て危険ということではない。逆に、建築確認がされているから安全ということはない。安全が合理的になっているかどうかの考え方が重要。設計者に、野間さんのセカンドハウスのように安全を考えるようにしてもらいたいと思います。建築基準法はことこまかく書いていて、考えさせなくしている。新宿で44人がなくなったが、国土交通省はさかんに基準法違反だといっている。法律違反でなくても、危険という本質をみておく必要がある。設計者が安全ということを考えれば、あのようにならないはずだ。再生した町家は、より、安全ということを示していきたい。その意味では、きびしく問わないといけないということになる。最低限の行政の指導が必要と思っています。■場をつくる。ネットワークを、どのようにつくっていくかは、重要と思います。ニューヨークのハーレムは今、安全になって、人がもどってきています。それは、NPOが業務改善という運動をやっているおかげです。NPOにお金を払って、まちをきれいにする仕事をしています。京都も、単に文化を残すのでなく、まちづくり、まちの管理など、行う、民間的な組織をつくって、財源をまかせてやってもらうことがよいのではないか。■伝統文化の話をすると、それをささえる技術集団の役割が大きい。技術集団の体制、しくみ、育成が大事だと思います。■議論の場、事例研究の積み上げ、が重要。西洋近代科学で推し量れないもの。建築の分野ではかたちで伝わる。パタンランゲージは、だれにでも伝わるという点がよい。パターンランゲージは建築を伝える仕組みです。■2、3階建ては、防火設計は、構造に比べて簡単なはずです。構造の耐震性は大事。構造の専門家にすると簡単かもしれませんが。近代科学では、壁量をもとめるのですが、構造についてもパラ-ンランゲージがあると思います。鉄がうまくつかえるところがあれば、鉄を使うことに賛成です。多様な解決法を認めながら、日本の建築の大切な部分をまもることが重要です。■西洋科学と、あいいれない部分について、どのようにするか、むつかしい。しかし、開き直ってやることはできない。それなりに、相手を説得することが必要。西洋近代科学の実験や証明のしかた、手法を、説得の材料として使う必要があると思います。説明できない部分がそれでも残るかもしれませんが。■市民も、建設する人も、安全を共有しないといけない。専門家の世界におしこめるのではいけない。法律がこうなっているから、というのではいけない。パタンランゲージの手法を取り入れて、お互いに語れるようにする。例としては、通り庭。そのデザインパターンで通り庭を理解する。
大谷:科学的検証に期待しています。町家再生研究会では、景観デザインガイドラインの研究を進めていきたい。

記録:北後


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