戻る

第63回MURオープンゼミナール
日 時 2003年6月7日(土曜日) 13:30~
内 容 伝統木造土壁の防火性能と歴史的町並みの再興
 早稲田大教授 長谷見雄二
場 所 神戸大学工学部3号館125室(参加27名)
伝統木造土壁の防火性能と歴史的町並みの再興
 早稲田大教授 長谷見雄二

<報告>
1975年 建築研究所に就職
当時、ビル火災が多発、防火研究員が増員され、防火研究に従事。

 

●最近、歴史的なまちなみが減ってきている。
伝統工法が法令にあわないことが原因の一つ。
「伝統工法が火事に弱い」が定説だったが、本当にそうか。
●戦前の伝統工法の住宅の実大火災実験
 すこしは燃えにくくするという発想だった。戦後、これをもとに建築基準法ができてしまった。新築だったら、どのようにすると火事に強くなるかという観点が必要。
●皮肉なことに、ツーバイフォーの導入をきっかけに考えることになった
1976年ツーバイフォーの実大実験があった。
●3年前に、京都の木下棟梁が再生町家に関わったとき、防火について強いものをつくるということになった。その結果、90分くらいもつもの、準耐火の倍のものができた。
●普通の大工がまじめに作ったものも強いことも示すということで、2年前から京都の工務店の組合と組んで、取り組み始め、法令にあうものを目指している。再生の場合も、どのようにすれば安全となるかを検討した。
●建築基準法に手希望した仕様として運用されるには
  1.国土交通省告示となる
  2.大臣認定を取得する
  戦略としては、2を推進して、1とすること。
●伝統町家の防火上の問題点
 まず、法令上問題にならないようにするにはの観点から考えた。
 法令に触れる点
  外壁(戸境部)の片面塗土壁
  外壁(腰板)片面塗土壁
  軒裏
  外壁(側面、木材張り)
  格子の開口部(木材の格子)
●防火性能に関する技術的基準(外壁と軒裏に要求される)
  遮熱性 30分間
    最高 室温+180℃に達しない。
  非損傷性 30分間
●菅原先生、住宅木造センターの実験がこれまでに行われていたが、その後の発展がなかった。
●最初、小型の実験 京大の木質研究所の耐火炉で行った。
その結果、外側に木材を張ることによって、断念効果があることがわかった。外側の木材が燃えることの問題(市街地防災としての問題)は残るが。
●その後、昨年から、実大実験を行っている。
柱が燃えると断面積が減って、また、片側の炭化なので偏心する。耐火炉では外側にふくらむ。断面が減っても強度が減りにくくすると、軸組の崩壊がなくなり、試験に通るようになる。つまり強度がでる。
りっぱな太い柱の家は火事に強いといわれるが、本当にそうであって、断面が減っても、残りの断面があるので持つ。試験法では、断面に応じた荷重となってしまう問題がある。
そこで、試験法対策として、杉板を柱の周りに張って、柱を守ることを考えた。これは防火構造の試験を通る。これは、告示となる可能性がある。
これで、新築の壁はできる。

 

●あと、軒裏の問題
京町家の軒裏では、面戸板の部分が問題といわれてきた。小屋裏部に火が入らなければよいとすると、板厚を増やせばよい。0.6mm/分とすると18mmあれば30分持つことになる。実験では、途中から、面戸板と周りの材との隙間から火が出てくる。
面戸板部分に漆喰を塗ると効果がある。これは、すきまをふさぐ効果がある。そこで、これを裏側に塗ることを考えた。
●残った課題は、開口部
格子がなぜいけないかと解釈的にいわれているのは、近くの可燃物と見なされることと、市街地防災上の問題。防火戸としてみる場合は、格子が外側にあると、格子が燃えても内側に火が入らなければ良いことになる。これによって火熱を強くすることがなければよい。
アルミ防火戸の外側に木の格子をつけたもので実験してみた。格子は火熱をふさぐという効果があった。それで、放射熱を防ぐということで有効とみなせる。
●以上で、法令上の問題はクリアされた。
●その次の課題は、再生時の問題
施工の仕方などディテールの問題がある。これまでの試験は、限界の耐力をかけていたが、それは、どのような条件で使われるかわからないから。しかし、再生の場合は、現に荷重がかかっていて、その荷重に耐えればよいということになる。それで、調査をしてみると、多く見積もっても試験で用いられる荷重の2/3でよいことになる。そうすると、細い柱であっても、若干の補強でよいことになる。このように法令解釈をしていけば、これまでの町家を活用・継承ができるのではないか。
●その後の課題としては、3階建て(新築を行う場合)
店舗併用の場合、3階建てすると、その場で生活しながら営業できる。まちの景観上の問題はありますが。
今から10年前、「おはようさん 京の町家街区」への提案のコンペでは、3階建てで、いろんなことが可能になる。
●京都だけでなく、その他の地域でもどうなのか見ていきたい。

<議論>
●京都のまちなみが風前のともしびだった。それで、長谷見先生に助けを求めたという経緯があります。一方で確認申請なしの用途変更がある。(室崎)
●構造の問題では、柱を多く入れて力を分散する仕組みがあまり理解されていない。(室崎)
●モルタルの防火性能と比較するといかがですか。
→モルタルの試験をしたこともありますが、30分丁度。戦争前にモルタルを普及した人もいっていますが、耐久性におとります。戦争中の地震でモルタルが剥離して、内部が腐っていることが報告されています。
●木造で3階建て、準耐火 柱、どのくらいでよいか
→準耐火となると、構造設計、15㎝以上、見せたいところはそうして後は壁式にすることが考えられる。
●排煙でも、建築と消防のそれぞれの観点から決まっている。 防火構造では、消防隊がくることを期待しているのか。また、防火構造の30分はどこからきているか
→戦前に行った実大実験の温度(縦軸) 時間(横軸)の曲線と等価になるように、ISOの曲線から割り出している。
●ツーバイフォーの場合、性能をチェックする仕組みがあるが・・・。在来工法について、内部火災のモデル化についての議論はあるのか?
→しっかりつくるのがベーシックです。
●実験で、新築の実験だが、すかすかになって燃えやすくなる問題は?
→外側はおまけなので、減っても問題はすくない。壁の隙間は、ちりじゃくりなどによって20,30年はもつ。このように補強することでカバーされる。軸組の耐久性は一番大事で、補修が必要。これはツーバイフォーでも同じ(長谷見)。耐火建築でも、メンテナンスが必要ですね。木造では昔からこまめに修理する習慣があった(室崎)。
●足助、岩村などでは、火事になったとき、外壁の上の木の板をはずすことになっているが・・・
→市街地火災の影響か。有効にきいたなどの経験があれば意味があるが。

<おわりに>
これまでの建築学が、近代建築、大きな建物しか扱ってこなかった問題がある。これからは、工務店などと協力して、伝統的な構法についても研究を進めていく必要がある。
連絡先:神戸大学室崎・北後研究室
     TEL 078-803-6009 または 078-803-6440
MURオープンゼミナールは、広く社会に研究室の活動を公開することを企図して、毎月1回、原則として第1土曜日に開催しているものです。研究室のメンバーが出席するとともに、卒業生、自治体の都市・建築・消防関係の職員、コンサルタントのスタッフ、都市や建築の安全に関心のある市民等が参加されています。興味と時間のある方は遠慮なくご参加下さい。


ご案内:2010年度までのアーカイブHPを表示しています。2011年度以降のHPを表示する▶