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第53回MURオープンゼミナール
日 時 2002年 6月 8日(土曜日) 午前10時~12時
内 容 刑事責任としての過失と事故調査  佐藤健宗
場 所 神戸大学工学部LR104教室
刑事責任としての過失と事故調査  佐藤健宗(弁護士)

■日本では、過失は犯罪。事故の現場での責任者は犯罪者扱い。
  これは、先進国では特異。
■注意義務に違反する=不注意なこと(精神の緊張を欠く状態)
  この場合、「過失」となる。
■犯罪を罰する効果は、
  応報(あだうち)、一般予防、特別予防(その人の再犯を防ぐ)
■米国では、ほとんどの場合、刑事手続きは行われない
  警察は現場対応に専念、事故調査機関は事故調査を開始。
■事故調査の目的
  エラーの背景にあるシステム全体に関わる諸要因を分析
 (4M分析法など)して、事故の再発防止、被害軽減を目指す
4M分析法
  MAN MACHINE MEDIA(環境を含む) MANAGEMENT
  各登場人物について、これらを見ていく
■過失処罰と再発防止の事故調査は対立する
  裁判記録の非公開性、黙秘権が再発防止上、問題となる。
■過失は処罰していいのか? → いけない
  なぜ、刑法は過失を処罰するのか
  エラーを人間工学から見直す必要がある。
■刑法では、原則「罪を犯す意思がない行為は、罰しない」
  過失は、限定された範囲で適用される特別法として、罰することになっている
■しかし、過失は、非倫理的でないことがある
  過失を罰することは、社会的妥当性から根拠を検討するべき
■人間工学では、人間エラーは
  人間-機械系システムの安全上の欠陥が偶発的に発露したもの
  → 人間エラーについて、倫理的非難はできない。
■エラーを犯した人を罰することは意味があるか
  わざとしたのでないので、意味がない
■諸外国での過失処罰の状況
  英米法 
    認識ある過失だけを犯罪としている
  大陸法 
    基本は日本と同じだが、
    認識なき過失は処罰の対象としないという運用がされている
■日本における流れ
  実務的に緩やかな過失の非犯罪化の流れ もある
■捜査機関の調査能力
  (いいかえると、専門的な機関にまかせるべき)
■事故に関する情報の社会的共有
  刑事裁判手続きでの非公開 が問題
■黙秘権と事故の再発防止
  被疑者として扱われると、黙秘する
■刑法の活用
  松宮教授(立命館大学)は、
  事故原因究明協力義務違反の提唱している。
■被害者・遺族の処罰感情
  民事訴訟における懲罰的損害賠償請求制度 をつくるとよい
  徹底的な事故原因究明と再発防止策の実施
  米国の被害者・遺族の態度 
    制度、状況がちがい、処罰について考えてもいない
    社会としてどううけとめるか、マスコミもこの態度
  日本の処罰感情は、
    マスコミの犯人探しの報道からきているのではないか
■保険制度の充実によるリスクの分散
■国家としての事故調査機関の位置づけが重要

(討論)
室崎:横井氏のようなひどい過失の場合、処罰されることがわかると、真実を明らかとしない態度となることになるが、どこで線を引くのか。免責をどこまで認めるのか。明石でも、手抜きなどの犯罪性があるかもしれない。民事で賠償をかけると、真実を明らかとしない。
佐藤:うそのスプリンクラーをつけたのは、故意犯に近い。認識なしの過失と、認識ある過失を分ける必要がある。横井氏とその回りの人の区別はあるのではないか。懲罰的損害賠償は、保険をうまく組合さないとうまくいかない、もたない。
越山:火災とか交通事故を災害としてとらえると、リスクということになるが、津波災害、地震災害などをこのような考え方にのせることは、ありえるのか。社会的な責任として。なぜ、のってこないのか。
佐藤:のってこないです。刑法理論の問題と、社会がそれを求めるかという2つの面があります。地震、津波とは、自然の猛威なので、社会的なあきらめがある。責任という時に、刑事責任、民事責任(政治的、道義的、人道的)がある。刑事責任を問うには、罪刑法定主義とかがあり、自然災害の場合、行為と結果の因果関係、注意義務違反があるというふうに、予見可能性が他と同じであれば、できるかもしれないが、むつかしいでしょう。
室崎:阪神淡路大震災のときの、通電火災。自動回復システムがあったのかどうか。やみのなか。事故予防と賠償責任が対立のとき、真実が明らかとならない。そのとき、再発予防のために、本当のことをいってもらう必要がある。
佐藤:情報公開、監視の必要。
北後:賠償する人と エラーを犯した人の区別が必要ではないか。
佐々木:認識できる過失、認識できない過失の区別は?
佐藤:むつかしい。長時間の議論が必要。望むと故意。明石、だれも(あのように事故になるとは)思っていなかった。思っていると、なにかをするのではないか。なかには、認識あったかもしれませんが。横井氏の場合は、認識ある過失。
室崎:認識するように努力しないといけない。予測のサボタージュで起きることがある。
佐藤:予見義務として議論されている。民事と刑事は分ける必要がある。4大公害訴訟、薬害スモンで、議論されてきた。薬は、予見可能性があるかどうかの前に、重大な副作用が考えられるものなので、どこまで調べたかが必要。調べると文献があった。
青田:日本の場合、特異な状況(過失を処罰)。なぜ、そうなのか。
佐藤:これが原因といいにくい。ドイツと同じで、運用がはなれてきた。なぜなのでしょうか。警察組織のその国でしめる位置、国民の信頼度の違い、警察の「わたしのしごと」の思い。説明できるほど、理解していません。
室崎:その他、補足的なことはありますか。
佐藤:平成3年の、信楽事故から、依頼をうけて、遺族とはじめてみると、鉄道事故になんの事故原因調査もなく、末端の責任者だけが遡上に。その後、NTSBに行って、歓迎された。草の根の活動が必要だといわれた。それ以来、10年がんばってきて、ようやく鉄道事故調査の法律ができました。ヨーロッパでも、米国と同じような動きとなってきています。調査はそれぞれ専門で行うという方向は、いろいろな分野でだんだんと広がってくるのではないか。

(以上、記録 北後)

来月は、WTC直後のニューヨーク市長ジュリアーニ氏(当時)の危機管理について、を考えています(林春男または室崎益輝)
連絡先:神戸大学室崎・北後研究室
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MURオープンゼミナールは、広く社会に研究室の活動を公開することを企図して、毎月1回、原則として第1土曜日に開催しているものです。研究室のメンバーが出席するとともに、卒業生、自治体の都市・建築・消防関係の職員、コンサルタントのスタッフ、都市や建築の安全に関心のある市民等が参加されています。興味と時間のある方は遠慮なくご参加下さい。


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